2スレ目-ケイさん
社員旅行、絵馬、頭のない人形、見下ろす顔、付いてくるモノ
社員旅行
9 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/02/20(水) 23:27:46 ID:bdhogm23O]
福井への社員旅行のときの話。
魔の社員旅行初夜が明けた二日目の朝。前日に浴びるほど酒を飲んだ為か俺の愚行の為か、いつもの倍機嫌が悪いケイさんに
全身を踏み付けられて起床した俺は、身仕度を済ませバスに乗り込み、芝政ワールドに向かった。芝政はそれなりに楽しく、なにも変わったことは起きなかったが、
今回の旅行の目玉であり、イッちゃってるうちの院長がいちばん行きたがっていた自殺の名所、東尋坊が問題だった。
最初は俺も何も考えずに芝政のノリを引きずって、はしゃぎながら同期の松田と写真を取りまくったり「海のばかやろー」などと
意味なく叫んだりしていた。ケイさんには「煙と何やらかは高いとこが好き」と嫌味を言われたりしたが、高所恐怖症なヤツの負け惜しみとしておく。
その後調子に乗った俺は、松田と崖下のほうに行き、小蟹を取ろうと石段のようなものを降りていた。段々みんなから離れて、水辺まで来た俺たちは必死に小蟹を探していた。 そのとき、水面に何かが白く光って見えた。
「なんだあれ?」
俺は思わず覗き込んだ。ゆらゆらと揺れる水面に映る青白いもの。魚のようで、でももっと細くて…
それが、人間の腕だと気がついたのは次の瞬間だった。
「うわ、あぁあっ!!!!!」
慌てて飛び退いた。だが、それと同時に、俺は「何か」に突き飛ばされた。
背中を押される感覚は、残念ながら学生時代に親無しだといじめられた経験からよく知ってる。
あの悪意に満ちた、寒気がするような手の触れる感覚を、俺が間違えるはずはない。そのまま俺は前のめりになって水面にダイブした。
水中で目を開けると、ぼんやりと見えてくる白い腕。岩の隙間からゆらゆらと生えているかのように揺れている。この世にこんな気持ち悪い光景があるだろうか。
バラバラに指が動き、白い腕はひたすら揺れている。
幽霊なのか自殺者の死体なのか知らないが、手招きするような動きをする白い腕はとにかく不気味で、一刻も早く水から上がろうと上半身を出した。
だが、絶望的なことが起きた。
そこまで深いわけでもないだろう場所なのに、海草にでも引っ掛かったのか、右足が動かないのだ。引き上げようと俺の手を引く松田にもそれがわかったらしく、松田が応援を呼ぶ。
「助けて!!誰か!!」
その様子に気付いた何人かが石段を降りてやって来る。
10 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/02/20(水) 23:29:51 ID:bdhogm23O]
四人ほど集まってきて、腕を引っ張って引き上げようとしてくれる。
その中にはケイさんもいた。
「踏ん張れ馬鹿!!!!死ぬぞ!!!!」
だって足が動かないってのに踏ん張れもクソもない。だいたい助けに来てもらっといてなんですが、あんたのが死にそうです。
と言いたいのを堪えて、足を散々ばたつかせて、嫌になるほど岩にぶつけながらなんとか引き揚げてもらった。
みんな安堵のため息をついて、気をつけろよ、と俺を小突いた。松田は半泣きになりながら俺の顔を汚いタオルで目茶苦茶に拭いていた。
「お前突然飛び込むからびっくりしたよ」
と松田は言った。
違う、何かに突き飛ばされたんだ。そう言おうとしたとき、気分悪そうにしながらケイさんが言った。
「足、見てみろ。」
その言葉に自分の足を見て、戦慄が走った。
俺の足首にびっしりと長い髪の毛が絡み付いていたのだ。黒い長い髪の毛が、まるで鎖をするかのように。
「ケ、ケイさん」
「お前マジでありえねぇ。二日で何回死にかける気だ?」
吐き捨てるように言うと、ケイさんはフラフラしながら石段を登っていった。
「次やったらマジで見捨てる」
振り向き様、青ざめた顔で言われた。俺は謝るしかなかった。松田は「キモい!!」を連発しながら俺の足首に絡まった髪の毛をちぎって捨てていた。
その後松田に水面を見て確認してもらったが、俺がみた白い腕などどこにもなかったという。
どちらにせよ、二度と東尋坊には行かないと誓った。
そんな悪夢の旅行から二週間程過ぎたとき、松田と後輩がひどく興奮した様子で何かを持ってきた。
渡されて見て見ると、それは旅行初日に踏切で撮った写真だった。俺はゾッとした。俺の肩越しに、何かの「目」が写っていたからだ。血走ったような生々しい目が、こちらを見つめている。その気持ち悪さに、俺は即座に写真を捨てた。
何から何まで最低な旅行だった。あれから一年が過ぎ、もう三か月もすればまた旅行がある。今回は俺の故郷でもある京都らしいが、頼りのケイさんのいない今、
俺は参加を迷っている。
今度こそ、死んでしまう気がして。
絵馬
48 名前: ◆BSvPUL2VVo sage [2008/02/26(火) 09:50:42 ID:5HQy4AGgO]
昨日一昨日と、ケイさんと職場の友人達と京都に行って来た。ケイさんの誕生日だったことと、両親の墓参り、そして俺が今年の旅行の幹事に任命(押しつけられた)されたので候補地の下見に行くという理由の為に皆を巻込んで。
久し振りの京都に興奮した俺達は墓参りをした後はそれなりに観光地をウロウロして、湯豆腐とか食って、アンミツで胸焼けしたりしながら遊び回っていたんだが、
同期の松田が縁結びの御守りを買いたいと言い出したところから、せっかくの旅行はおかしくなった。
到着した縁結びが有名な某神社で御守りを吟味していると、隣りに女の子が並んだ。茶色いコートを着ていて、結構可愛かったように思う。
女の子は美容の神様だったかの絵馬を買い、その場に台とペンがあるのに願いを書こうとはせず、絵馬を抱えてフラフラとどこかに行ってしまった。
俺は特に気にならなかったが、珍しく真剣な様子で絵馬を書いていたケイさんが顔をあげて言った。
「あの女、ちょっとヤバイな」
なんでですか?と聞き返すが、「足りない頭で考えろ。なんでも俺に頼んな。死ね。」と冷たい返答が返ってきた。しかしそんなことを言われたらやっぱり気になるし、
よくない、とは思いつつも俺は女の子が歩いて行った方向に向かった。要するに後をつけたわけだ。だってあの子は生身の人間だし怖いこともないだろうし。
しかしすでに遅かったようで女の子の姿はすでに無く、あたりを見回すが誰もいない。角を曲がって林のようなところに差し掛かったところで、仕方なく俺は皆のところに戻ろうとした。そのときだった。
ザクッ ザクッ ザクッ
何かが突き刺さるような音が林から聞こえた。ちょっと近付いて中のほうを覗くと、人がいた。さっきの女の子だ。女の子は地面にしゃがみこんで何かをしている。そっとちょっとだけ近付いて見てみて、俺は鳥肌が立った。
女の子は、さっきの絵馬をナイフのようなもので刺していた。絵馬には写真のようなものが重ねられている。
途中に手でも切ったのか、ナイフや絵馬に血がついている。なのに女の子は無言のまま一心不乱に絵馬をメッタ刺しにしていた。
49 名前: ◆BSvPUL2VVo sage [2008/02/26(火) 09:53:15 ID:5HQy4AGgO]
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ
抜いては刺して、抜いては刺しての繰り返し。怖い。つか気持ち悪い。何これ。何この女。あまりにも不気味な光景に俺は後ずさった。だが。
「…なに見てんのよ」
低い声がした。女の子が、ゆっくり振り返る。
「 な に 見 て ん だ よ お ぉ お !!!!」
女の子が立ち上がった。さっきの可愛らしい雰囲気は無かった。手にはナイフと、ボロボロになった写真と絵馬。コートには赤黒い染み。ギリギリと歯を食いしばって、血走った目が、俺を睨み付けて来る。
殺される、と思った。
だってこの子は生身の人間だから。幽霊なんかと違って、物理的に、そして確実な危害を与えられるから。俺は好奇心に負けて他人の行動に首を突っ込んだことを死ぬ程後悔した。
女の子はゆっくり近付いてくる。俺は怖くて背を向けて逃げることもできず、後ずさるだけだった。そのとき、
「シュウヘーイ!!シュウヘイヘーイ!!」
と、間抜けな呼び声がした。松田の声だ。これはチャンスとばかりに俺は一目散に飛び出した。女の子は「あっ」と小さく呟き、追いかけて来た。
林から出てすぐのところに松田とケイさんがいた。松田は「急げ!!」といい、ケイさんには「マジで死ね!!」と無理矢理腕を引っ張られて走らされた。それ以上女の子は追いかけては来なかった。
神社を出て車に乗り込んだところで、俺は案の定ド叱られた。松田にははたかれ、ケイさんには怒鳴られる。
「ああいう女は何するかわかんねえ。生身の人間は俺でもどうにもしてやれねえし。馬鹿やって死ぬのは勝手だが俺に迷惑かけんなクズ」
と散々な言われようだった。元はと言えばアンタが変なこと言うからだ、と言いたかったが勿論言えなかった。
頭の中であの女の子の顔が渦巻いていた。あのとき松田たちが来てくれなかったら俺もあの絵馬のように…そう考えると寒気がした。
あの女の子がやっていたことはいわゆる「丑の刻参り」みたいなものなんだろうか?知ってるひとがいたら教えて欲しい。
その後、ホテルにてお約束通り金縛りにあったりしたが、俺はあの女の子の形相のほうが、よっぽど怖かった。
生きてる人間が、一番怖い。
よく聞く言葉だけど、ほんとにそうだな、と初めて思った。
頭のない人形
255 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/03/05(水) 00:03:05 ID:kq4cLS11O]
敢えて空気読まずに投下。
先日、ケイさんが病院の事情により二、三日ほど名古屋に滞在することになった。動物嫌いのケイさんは猫がいる俺の部屋ではなく同期の松田の部屋に泊まることになった。
もちろん俺も遊びに行き、三人で酒を飲んで騒いでいた。そんなとき、何かの拍子にジジコンな松田の今は亡きお祖父ちゃんの話になった。お祖父ちゃんは松田に甘かったらしく、誕生日にロゴのセット(当時は割りと高級品)を買ってくれたそうだ。
「でもさあ、全部弟に壊されちゃって残ったのはこの人形だけなんだよね」
と、松田は工場の人のような人形を見せて来た。その人形を片手にお祖父ちゃんの思い出を語る松田を見て、俺はよからぬイタズラを考えてしまった。今思えばほんとに最低だったと思うが、普段から奴にからかわれているので仕返しがしたかったのだと思う。
しばらくしてケイさんがトイレに立ち、酔いつぶれて松田が寝てしまったのを見計らって俺は人形をコッソリ懐に入れた。そして帰ってきたケイさんに松田を押しつけて部屋を出ると、松田の部屋のドアの前に人形を置いておいた。
俺と松田の部屋は寮の最上階だから誰かが通りかかって拾う心配もなかったし、単純な松田は「お祖父ちゃんの霊があいにきた」と思うだろうと思って。
そして次の日、職場で会うなり松田は案の定嬉しそうに「お祖父ちゃんが来てくれた」と言って来た。まんまと引っ掛かったらしい。
あまりに嬉しそうな様子に、途端にものすごく罪悪感が沸いて、何もかも話して謝りたくなった。が、さらに松田を傷つけてしまうのも怖かったので黙っていた。イタズラなんかするもんじゃないと心底思った。
それから何事もなく数週間が過ぎたある日、仕事を終えて寮に帰ると松田の部屋のドアの前に何かが落ちていた。
何気なくそれを見て、俺は背筋が凍り付くのを感じた。
それは、あの人形だった。いや、人形の「足」だった。
頭や胴体は無く、ご丁寧に足の部分だけがちょこんと並べられていた。
もちろん、今度は俺のイタズラなんかじゃない。
「カズ!!!!!カズ!!!!開けろ!!!!」
無性に怖くなった俺はドアを叩いて松田を呼んだ。すると松田はひょっこりと顔を出し、俺と人形の足を見つけると
「あ!!今日も来てる!!」
と嬉しそうに笑った。
256 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/03/05(水) 00:05:14 ID:3zOs37pnO]
訳がわからなくてどういうことだと問詰める俺に、松田はいつもの調子で言った。
「なんかさ、毎週毎週置いてあるんだよな。先週は右手、その前は胴体だったし。」
一番初めはカンペキな状態で置いてあったんだけどその後また無くなってからはなあ、と松田は言った。一番初めってのは俺がイタズラしたときのことだ。じゃあ、その後のは…
俺はほんとに怖くなって、適当に松田を誤魔化して自室に戻ると即座に電話を掛けた。もちろんあのひとに、全てを話す為に。そしてあわよくば助けてもらいたくて。
「…なんだ。」
相変わらず不機嫌そうな声で電話に出たケイさんに俺は全てを話した。イタズラをしてしまったこと、そしてその「イタズラ」がまだ続いていること。
「やっぱりな」
怒鳴られるかと思ったがケイさんは冷静に、しかしあきれたように言った。
「あの飲み会の日から松田の頭に薄紫のモヤみてぇのが見えてな。そうそうヤバイもんでもなさそうだから放っといたが、決してイイモンでもねえぞ。」
どうしたらいいですか、との問いに「テメェが撒いた種だろが。別にお前が死ぬわけじゃねぇし放っとけ」と答えるとケイさんはさっさと電話を切ってしまった。
実際何ができるわけでもなく、俺は心の中で松田に土下座しながら、松田の無事を必死に祈った。
それから数日して、たまたま松田と夜勤になった日。
罪悪感からあまり喋ることができなかった俺に、松田が話し掛けてきた。
「人形さ、もう置かれなくなったよ」
笑顔で言う松田に安堵した。良かった、やっぱりなんでも無かったんだ。そう思った。が。
「でもさ、なんでかな」
「 あ た ま だ け 置 か れ て な い ん だ よ ね ? 」
首をかしげる松田に、俺は心底恐怖した。松田自身は「頭は大事な部分だからお祖父ちゃんが守ってくれてるんだ」などとほざいていたが、その直後にエレベーターのドアに頭をぶつけていることからして
どうしてもそうは思えなかった。
しかも松田は今も頭のないその人形で時々仕事中に遊んでいる。その姿が一番怖い。
取りあえず二度とイタズラなんかしないと誓った。
見下ろす顔
428 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/03/22(土) 18:57:52 ID:WXKmZpSZO]
先日、ケイさんがバイク事故を起こした。
どっから回ってくるのかそのニュースはその日の朝っぱらから病院中に広まった。
辞めた人間のニュースが瞬く間に広まるこの病院はマジでオカルトだと思う。俺だって知らなかったのに。俺に回してきたのは同期の松田だった。
「レゴストラップが千切れたから嫌な予感がしたんだ」
と松田は言った。ちょうど俺も松田も次の日から三連休だったのでケイさんのお見舞いに行くことにした。後輩の鑑ではないか。
翌日、松田のセダンにてケイさんの入院している病院へ向かった。かなり荒い松田の運転のおかげで予想より早く到着し、俺たちは差し入れのエロ本とケイさんの好物の牛乳プリンを持って病室に入った。
「おせーよ。暇過ぎて死ぬ」
相変わらずの無表情で奴は言った。心配して来てやったのにこの糞メガネめ、と内心毒づきながら事故の話を聞く。
飲酒運転だと決め付けていたが、意外にも飛び出した子どもを避けようとして転倒したらしい。この人にも人間らしい行動が取れるのか、とかなり失礼な感想を胸に抱きつつ、
事故にて折れた痛々しい右足を気の毒にも思った。それにしてもよく骨を折る人だ。
「そこの菓子、食っていいからな」
エロ本と牛乳プリンを渡すと機嫌が良くなったらしく見舞い品のお菓子をくれた。そういえばよく「餌づけ」と称してお菓子くれたな、なんてことを思い出し、やっぱりケイさん優しいなって思った。
それが間違いだったのだが。
しばらく他愛ない話をしたりしてるうちに面会時間も終わりに近付いてきた。松田はトイレに立ち、俺はなんとなく話すこともなくなりぼーっとしていた。
そのとき不意にケイさんが言った。
「なぁ、コーヒー買って来てくんね?」
珍しく下手に出るケイさんに、俺は快く了承した。「自販機、廊下の奥にあるから」と120円を渡される。俺はその120円を手に病室を出た。
廊下はひんやりしていて、とても静かだった。ナースステーションからも遠いせいかちょっと薄暗い。いくら病院で働いてても慣れた職場とは違うわけで、やっぱり夜の病院て怖い。
俺は少し早足に自販機を目指した。
そのとき。
「ねぇ」
不意に呼ばれて、振り返り声の方を見上げると、柱から男の顔が覗いていた。知らない顔だった。
こちらを覗きこむようにじっと目を開いたまま、顔が覗きこんでいる。
429 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/03/22(土) 18:59:09 ID:WXKmZpSZO]
気持ち悪いな、なんだよ。と思いつつ、踵を返そうとしたとき、気付いた。
なんで、「見上げてる」んだろう。
男の顔は、柱のいちばん上からこちらを覗きこんでいた。
どうしてそんな高いとこから、顔を出すことができるの?
途端に鳥肌が立った。そんな背の高い人間がいるはずない。心底恐怖した。が、何故か走り出せなかった。
そのうち、その男は口を開いた。
「 い っ し ょ に 死 の う ? 」
顔がニタリと笑って、柱から下がってきた。その聞いた瞬間、やっと足が動いた。雄叫びをあげながら走って逃げた。怖い怖い怖い怖い怖い。殺される。
コーヒーのことなんか考えてる余裕は無かった。走って走って、ケイさんの病室に逃げ込んだ。
「どうした?いつにもまして情けないツラしやがって」
ニヤリと笑ってケイさんは言った。
まともにしゃべれない俺はひたすら泣くしかなかった。ほんとに情けない。
「顔でも見た?」
ニタニタ笑うケイさんに、こいつは確信犯だと確信した。
「なかなか面白いだろ?暇つぶしにはなった」
ケタケタ笑う糞メガネに息を整えた俺は散々毒づいた。
「ふざけんなよクソ眼鏡!!!鬼!!!悪魔!!!鬼畜!!!」
しかし奴は微動だにせず、
「俺は鬼畜だけど、お前は家畜だろ?」と抜かした。呆れてもう何も言えなかった。
それから数分後、先程の俺と同じように息切れして号泣した松田が病室に入ってきたが、
俺はケイさんのように笑う気にはなれなかった。
付いてくるモノ
547 名前: ◆BSvPUL2VVo [2008/04/18(金) 00:26:15 ID:ZaBw9Np4O]
空気読まず投下。
先日、バイク事故で死にかけていた(殺しても死ななそうな)ケイさんの退院祝いに、同期の松田と俺とケイさんのお兄さんという不思議なメンツで松田のセダンにて某テーマパークに行って来た。
ケイさんの妖怪並の回復力、ジェットコースターが乗っている最中に機械の誤作動で止まったりと、かなり本気で洒落にならないことがあったりしたが、
それなりに楽しかったしケイさんのお兄さんの巴さんはケイさんと違ってかなり優しく、たかが2歳差でこうも人間のデキは違うのかと思ったりした。
しかしそれは甘かったと、数時間後に知るハメになった。
帰りの車中、運転してくれていた巴さんが突然「●●霊園に行こう」と言い出したのだ。いわく、かなり怖い心霊スポットらしい。当然俺は怖いので嫌がったが、満面の笑みで
「降ろすよ?」と脅されれば行かないわけにはいかない。知らない場所、それも山道に取り残されるのは方向音痴な俺には死を意味する。
ケイさんはため息をついて「また始まった」と言うだけだったし、唯一の味方のはずの松田は何故かノリノリで誰も俺の味方はいなかった。
結局しばらくして、霊園に到着した。巴さんは車を霊園の入口に止め、どこからともなく二本の懐中電灯を取り出し、一本を俺に渡した。
「カズミくんは俺、シュウくんはシズと回ってね」
何しに俺がケイさんと!!!せめて松田と回らせてくださいよ!!!と思ったが、
「シズがいればある程度は大丈夫」
と説得され、お互い嫌々ながら俺とケイさんは霊園を回ることになった。巴さんと松田は左に、俺たちは右に回り、再び車の前で落合う段取りだった。
あたりは真っ暗、もちろん猫の子一匹いやしない。怖い。超怖い。俺はケイさんのジャケットの裾にみっともなくしがみつきながら恐る恐る前に進んだ。
しかし、期待はずれに特に何もなく半ばまで進んだ。拍子抜けした俺はちょっと余裕ぶって、
「なんだ、なんもないじゃないですか。別に普通の霊園だし。なにがあるってんですか?」
と、聞かなくても良い余計な質問をしてしまった。するとケイさんはめんどくさそうに
「ここの墓場は、一周回り切っちゃいけねぇんだとよ」
と言った。意味がわからず聞き返すと、
「一周回ると、余計なもんがついてくるんだと。俺は見た事ねぇけど。お前は危ないかもな」
と不機嫌そうに言い返してきた。
548 名前: ◆BSvPUL2VVo sage [2008/04/18(金) 00:29:04 ID:ZaBw9Np4O]
途端にゾッとした。もう俺たちはほぼ半分以上進んでしまったのだから。聞かなきゃ良かった。あのときの俺を殺したい。
「なななんで初めから言ってくれないんですか!!!」
「巴が言うなって言うから。いつものことだし」
しらっと言うので余計頭にきたが、相変わらずズンズン先へ進むケイさんを止めるのが先だった。
「戻りましょうよ!!嫌です!!ついてくんの超嫌!!!」
「うるさい死ね。戻りたきゃひとりで戻れヘタレ。」
そんなこと言われたって戻れるはずもないのに。引きずられるように俺は後に続いた。しかし、そのとき。
「 ずる ずる ずる ずる 」
何かが引きずられるような音が後方からした。もちろん俺が引きずられてる音ではない。
「ケイさん、なんか、怪しい、音が」
俺は口をパクパクさせながら訴えたがケイさんは素知らぬ顔だった。しかし音は段々と近付いて来る。怖くて振り向くことは不可能だ。
「ずる ずる ずる ずる ずる」
這いずるような音が押し寄せる。怖い。
「チッ」
ケイさんは舌打ちすると、小さく「走れ」と呟き、次の瞬間には走り出した。俺も後に続き、全力疾走した。音は段々間隔が狭くなり、ずるずるずるずるとこちらを追いかけるようになる。
もう嫌だ、誰か助けてと心底思いながら夢中で走っているうちに、なにか光がグルグルと回転していた。人魂!!??とビビったがそれは懐中電灯を振り回している松田だった。
「おーい!!おーい!!」
松田を見てこれほど安心したことはなかったし、多分これから先も一生無いだろうがかなりホッとした。俺は松田に飛び付いてさっきまでのことをまくし立てたが、松田たちは特に何も無かったらしく俺だけが騒いでいた。
巴さんが意外とつまんなかったね、と笑って車に乗り込んだ。俺も車に乗り、これでようやく長い一日が終わると息をついた。が。
巴さんが車のライトをつけた瞬間、俺は悲鳴をあげた。
549 名前: ◆BSvPUL2VVo sage [2008/04/18(金) 00:30:46 ID:ZaBw9Np4O]
「うわぁああっ!!!!!!!!!!!!」
手、手、手、手!!!!!!
車のフロントガラスに、白い無数の手形がついていた。
一瞬松田たちのいたずらだと思ったが、その手形のサイズはバラバラで老若男女問わず大量についていた。
「うわー。すごい。しかもこれ、」
巴さんがガラスを指で拭くと、手形の一部が少し消えた。
「 内 側 か ら だ ね ? 」
俺はもう泣くしかなかった。後ろでは松田が「先週洗車したばっかなのに!!」とツッコミどころを間違えて半泣きになっていたが、何事も無かったかのように車は走り出し、誰も口を開かなかった。
後日、松田が職場の駐車場で必死に手形つきセダンを洗車していたが、俺の知ったことではない。
- 最終更新:2009-12-05 19:34:00