1スレ目-ケイさん

「ケイさん」、車イスの音、退職、疫病神、ビデオ、肝試し、社員旅行

「ケイさん」

19 名前:「ケイさん」1-1 sage [2007/09/22(土) 23:24:17 ID:v4ytdUG10]
俺の職場には、いわゆる『見える人』がいる。
仮にケイさんとしておくが、この人は本当にヤバい人だ。見た目はちょっと派手なだけで、ほかは割合普通の男の人なんだけど。
やっぱり違う。
まあ、俺もいわゆる『感じる人』で、はっきり見えたりはしないが、しばしば嫌な気配を感じたりすることはあった。でも
ケイさんはケタが違う気がする。
ちなみに職場ってのは病院、しかも老人や重病者が集まる、つまりは末期医療専門の病院だ。ケイさんは看護師さん、俺は介護職員をしている。
そんな職場だから、人の死を目の当たりにすることは多々ある、いやむしろ毎日だ。
でも、幽霊ってのは、そうそう簡単には現れない。いくらバタバタ人が死んでも、みんな幽霊になるってわけじゃないだろうし。幽霊だのお化けだの、見えないのが普通だ。
だけど、ケイさんは違う。

「石田さん。」
ケイさんは、突然なにもない廊下の隅に話掛けたりする。
「ここにいてもダメです。ほら、お部屋に戻ってください。」
まるで誰かがそこにいるように、話掛ける。誰もいないのに。
俺も最初は、アル中か何かで幻覚見てんだろ、アブねーやつ。
とか思ってたけど、その考えは間違っていたことに気付いたのが、ちょうど半年前のこと。

20 名前:「ケイさん」1-2 sage [2007/09/22(土) 23:25:10 ID:v4ytdUG10]
その日、ケイさんと俺は夜勤で、早寝のケイさんはあと10分で仮眠、俺は巡回に行くはずだった。
なのに、
「…おい。」
カルテを書いてると、すっげぇ不機嫌な声で、ケイさんが声掛けて来た。ただでさえ目付き悪いのに、睨まれると目茶苦茶ビビる。
「な、なんですか」
俺は、怯えながら返事をした。
ケイさんは苛々した様子で、俺の肩に何かを投げ付けてきた。
「余計なモン連れてきてンじゃねーよ。」
明らかに怒ってるケイさんが投げてきたのは、鏡だった。
そういえば、ケイさんの怒気にあてられてあまり気にしてなかったが、さっきから異様な寒気がしている。
それに気付いて、恐る恐る鏡を覗く。
すると。
「あ、あ、あああああ」
腕、っつーか、指?が俺の肩に乗ってた。ちょっと考えられない折れ曲がり方した指。中指と一差し指が三つ折りになってる。明らかに、生きてる人の指ではない。
しかも俺は、その指に見覚えがあった。
「さ、坂上さんだ…」
その指の先にある小さなホクロ、一薬指につけられた安物のリング。
それは間違いなく、坂上さん…数時間前に肺炎で亡くなったじいさんの指だった。違うのは、その指の曲がり方だけ。
ベキベキ音をたてながら、今度はリングがされた薬指が三つ折りになる。
「ケイさん!!助けてください!!」
俺はケイさんに助けを求めた。なのにケイさんは、
「俺、坂上のじーさん嫌いなんだよな。」
ションベンくせーし、ワガママだし。と、看護師としてあるまじき暴言をはいて、煙草に火ぃつけやがった。
「ケイさん…」
半泣きになってすがる。
でも、このドSな先輩は謗らぬ顔で。恥ずかしながらこの歳になって俺は泣きべそをかきまくっていた。

21 名前:「ケイさん」1-3 sage [2007/09/22(土) 23:26:01 ID:v4ytdUG10]
そんな俺がいい加減ウザくなったのか、ケイさんは「んー」と唸ると、
「坂上さん。連れてく人が違いますよ」
と、俺の背中の向こう側に声を掛けた。その途端、空気は軽くなり寒気は消え、「ああ、いなくなった」と俺は無意識に思った。そして、ケイさんに死ぬほど感謝した。
でも当のケイさんは「お前、ヤられやすいから気ぃつけろ。つか俺に迷惑かけんなウザイ。死ね。」
と言い残すと、仮眠室に消えていった。しかしそれから数分後、ケイさんは
「エンゼルの用意しとけよ」と仮眠室から顔を出した。エンゼル、ってのはつまり、死後処置だ。「何でデスか」聞き返すと、「坂上のジジィ、死んでからも迷惑掛けやがって。死人はさっさと死んどけよ」と意味不明なことを呟き、また仮眠室に引っ込んだ。
それから数時間後、ケイさんが仮眠を終えた頃。立て続けに患者が2人亡くなった。
俺は嫌な予感を覚えながら、準備していたエンゼルを行った。


仕事が終わり一息つくと、ケイさんがこれ以上ないくらい不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「ケイさん、まさか、」
「テメェのせいで散々な夜勤だった。あのまま放っとけばよかったかな」
俺が聞き終える前に、ケイさんが言った。
「じゃあやっぱり」
「逝き遅れた年寄りほど見苦しいモンはないぜ。手当たり次第連れていきやがる。」
やっぱりあのとき、坂上さんは僕を連れていくつもりだったらしい。それをケイさんが助けてくれたんだ。だから坂上さんはかわりに患者さん二人を連れてったんだと思うと多少胸が痛んだが、俺はとにかくあらためてケイさんに感謝した
「ありがとうした、俺、なんて御礼言ったらいいか…」
「あん?当然だろ?」
ケイさんが煙草に火をつけながら言った。


「あんときお前が連れていかれてたら、俺の仮眠時間が無くなってたじゃねぇか。」

このセリフを聞いたときほど、ケイさんを怖いと思ったことはなかった。

今現在、ケイさんはある厄介なことをやらかして休職中だが、
あの人とは他にもいくつかヤバイ体験をしたので、
とりあえずあの人が職場復帰するまでに、いくつか書いていきたいと思う。



車イスの音

34 名前:「ケイさん」2-1 sage [2007/09/26(水) 17:46:44 ID:Zu0HfZ4b0]
以前、ケイさんという職場の先輩の話を書いた者だが、ちょっとやらかして休職してたそのケイさんが10月から職場復帰するらしいので、
今のうちにケイさんとの話をいろいろ投下しようと思う。

ケイさんが休職する一月くらい前。夏のクソ暑い日のこと、俺は夜勤のケイさんに付き合わされて夜の巡回をしていた。
ケイさんに3階の見回りを命令された俺はひとつひとつ部屋を見て周り、異常がないのを確認すると、上にあがる為エレベーターを待っていた。
ウチの職場は、脱走癖のある患者や痴呆の患者が集められている3階のエレベーターには暗証番号式のロックが掛かっているんだが、これがなかなか面倒臭い。
他の階に行く度に暗証番号を打ってエレベーターに乗らなきゃいけないし、打ってるあいだに止まっていたエレベーターが動き出して中々来ない…なんてことがよくある。
階段もドアに鍵が掛かってるし、面倒なこと極まりない。
ただ、ケイさんいわく、このロックにはただ患者の脱走防止のためだけにあるわけではないらしい。
なんでも痴呆がある人ってのは「そうゆうもの」を呼び寄せやすいらしく、つまりウチの病院の3階は幽霊だの何だのがめちゃめちゃいらっしゃってる場所なのだと。
そして、「そうゆうもの」を引き連れた3階の患者が他の階に「そうゆうもの」を置いていかないように隔離しているんだと。
かなり嘘くさい話だし、俺自身その話聞いたときは鼻で笑った。でも、深夜にその3階でエレベーターを待っている身としては思い出すと結構怖かったりする。
だいたい、そんな話をしておきながら3階の巡回を命じるケイさんはやはり鬼畜だと思う。
まあそんなわけで、俺はガクブルしながらエレベーターが降りてくんのを待っていた。7、6、5…だんだん下がってくる。
そんとき、4階でエレベーターが止まった。ケイさんが乗ってきたのかと思い意味もなく身構える。すると
廊下の奥からキィー、キィーと車イスの音が聞こえてきた。暗くて見えないが、ああ誰かトイレでも行くのかな。と思った。
ちょうどそのとき、エレベーターのドアが開いた。
ケイさんが出てくる、と思ったが出てこない。あれ、おかしい。なんで出てこないんだ。
そう思いながら乗り込み、ケイさんがいる4階へ向かった。
車イスの音はまだかすかに聞こえていたが、次第に聞こえなくなっていた。

35 名前:「ケイさん」2-2 [2007/09/26(水) 17:47:32 ID:Zu0HfZ4b0]
4階につき、エレベーターを降りると、とたんに鋭い声が飛んで来た。
「バカ野郎!!」
声の主はもちろんケイさんだった。怒鳴られたのはもちろん俺。
「な、なんですか」
「テメェ、毎回毎回ざけんじゃねぇよカス。役立たずの疫病神が。」
眉間に5本ほどシワをたたえたケイさんに、暴言をはかれた揚句アゴを鷲づかまれた。痛みと驚きに悲鳴をあげると、「飲め。」と言われてペットボトルを口に突っ込まれた。中身は日本酒らしく、嫌なツンとしたにおいがした。
「ケイさん、俺、未成年なんですけど…」
つか、職場に、しかも夜勤中に酒ってどうよ。しかしケイさんはお構いなしに言った。
「お前、ヤられやすいっつったろ。面倒臭ぇの連れてきやがって。」
サーッと血の気が引いた。
「ま、まさか」
「気味悪くニタニタ笑いやがってよ。白目剥いてるわヨダレたらしてるわ口裂けてるわで。首ひっくり返ってやがるし。夢見のワリィ。」
つまり、気味悪くニタニタ笑う、白目剥いてヨダレたらして口裂けてる首ひっくり返った「何か」が俺についてきてたらしい。そして、「それ」をまたもケイさんが払ってくれた?らしい。「お前、本当いい加減にしろ」
ケイさんは非常に不機嫌そうに頭をボリボリかきながらステーションに戻っていった。おそらく除霊の為に飲ませてくれたのであろう日本酒の残りは、ご丁寧に自分のポケットに再び忍ばせて。アル中め。
しかし、なにはともあれ俺はさりげないケイさんの優しさに感謝しながら、ケイさんに続いてステーションに入り、
巡回の記事を書く為3階のカルテを手にとった。
そして、ずらりと並んだカルテのネームを見て気付いた。


3階には、車イスを使っている患者さんはいないことに。

痴呆はあっても、歩ける人しかいない

なら、
あ の 車 イ ス の 音 は ?


震える手でカルテを書きながら、俺は本気で転職を考えた。



退職

48 名前:「ケイさん」3-1 sage [2007/09/29(土) 22:37:23 ID:tTJIzcAV0]
10月に職場復帰するはずだったケイさんが、今日付けで退職した。朝のミーティングでそれを言われたとき何故か俺は号泣してしまって、今日一日最高に恥さらしだった。
帰ってくるって言ったくせに、あのメガネめ。そんな憎しみに近い悲しみを抱きつつ、
今日はケイさんが休職…というか退職する羽目になったキッカケの出来事について投下しようと思う。

それは8月の終わり頃、俺はエンゼル(死後処置)の為、朝っぱらから駆り出されていた。
同期のスタッフや看護学生もみんな出払っていて、確かフロアに残っていたのは夜勤明けのケイさんと、早番だった二人のスタッフだけだったと思う。
その日は確か立て続けに二人亡くなって、特に大変だった。俺は浄式用のバケツやら何やらを抱えて、処置室と病室を行ったりきたりしていた。
そして、たまたま霊安室の前を通りがかったとき。何故か俺は全身に悪寒が走った。鳥肌が異常に立って、熱でも出たのかと思ったくらい、嫌な感覚がした。


49 名前:「ケイさん」3-2 sage [2007/09/29(土) 22:38:02 ID:tTJIzcAV0]
気にしない。気にしない。そう自分に言いきかせて、十数メール先のエレベーターまできたとき、ふっ、と霊安室を振り向くと、ちょうど誰かが出てきた。
薄紫のニットを着た女の人だった。多分、今日亡くなった二人の患者さんのどちらかの家族なんだろう。泣いているのか、ひどくうなだれていて、肩くらいの長さの髪が震えていたことを覚えている。
こちらに向かってゆっくり歩いてくるそのひとに、職員として声くらい掛けるべきかと思い、俺は近づいた。
「この度は、ご愁傷様でした」
そう言って頭を下げた。
そして、顔をあげて俺は仰天した。
「っ!!」
女の人の顔が、俺の鼻先5センチくらいのところにあったからだ。しかもその表情は、なんていうか、能面みたいな顔で、口元だけがものすごくニンマリしていた。歪んだ笑顔って、ああゆうのを言うんだと思う。
とにかく不気味で、俺は危うくバケツを落としそうになった。女のひとはニンマリ笑ったまま、歩いて行った。言葉も交わさぬまま。ただただニンマリ笑っていた。
そして、その姿が見えなくなって、エレベーターがやっと降りてきたとき。
ガシャンッ!!!と、すごい音がした。霊安室からだった。何事かと思い、走る。するとそこには、

50 名前:「ケイさん」3-3 sage [2007/09/29(土) 22:38:33 ID:tTJIzcAV0]
「ケ、イさん…?」
ケイさんがいた。目茶苦茶になった霊安室のド真ん中に、凄まじい形相で。左腕が真っ赤で、ありえない方向に曲がってプラプラしていた。明らかに折れている。
「何してんスか!!!」
俺は慌ててケイさんに縋り付くが、ケイさんは折れた左手を気にする様子もなく、意味不明なうめき声をあげながら手当たり次第あるものを壁にぶつけていく。
「あ゙ぁああぁっ!!」
「ケイさん!!ケイさん!!」
こわかった。今まで見たことがないケイさんがいた。どちらかといえばクールで、愛想もなくて無表情なケイさんが、
真っ青になりながら玉のような汗をかいてうめきながら物をぶつけている。今までのどんな怪奇現象より怖かった。
俺はとうとうケイさんが狂ったと思い、無我夢中で縋り付いた。多分、俺は泣いていた。しばらくして騒ぎを聞き付けた他のスタッフやドクターがケイさんを押さえつけ、俺をケイさんから引きはがした。
霊安室は目茶苦茶に荒れていて、ベッドに寝ていた仏さんの安らかな死顔が逆に不自然だった。ドクターとスタッフに抱えられてフラフラ歩くケイさんが、何かを呟いた。俺はそれを聞きながら処置室に運ばれ、その日は早退させられた。

51 名前:「ケイさん」3-4 sage [2007/09/29(土) 22:39:52 ID:tTJIzcAV0]
次の日から、俺は普通に出勤したが、ケイさんは謹慎処分になった。クビにならないのが不思議なくらいだが、看護・介護業界の人手不足を思えば仕方ないのかもしれない。
ケイさんが暴れた原因は「過労によるノイローゼ」だとか「酒の飲み過ぎによる幻覚」だとかでうやむやにされたけど、
俺は違うと思ってた。いや、知っていた。だって、聞いていたから。去り際、ケイさんが呟いた、
「またきた。あのおんなが、みんなつれていく。」って言葉を。
そんなこんなでケイさんは、10月まで休職になった。…いや、なっていた。だけど結局、ケイさんは今日でみずから仕事をやめてしまった。
俺はケイさんなら、たとえクビになっても出勤してくるだろう、酒片手に職場に乱入するくらいはするだろう、そのくらい朝飯前だろう、そう思っていたし、
実際あのあと何回か電話したときも、「ちゃんと帰るよ」って言っていたのに。すごくショックだった。実際今もテンパってるし、文章もいつも以上に目茶苦茶だと思う。
あの女の人についても、残念ながらオチはない。ケイさんは話そうとしなかったし、俺のそばからいなくなってしまったから。
まあ、ケイさんとはいろいろとあったし、まだ社員旅行のときの話も踏切の話もあるから、また投下するかもしれない。
一生会えないわけじゃないし、また何かあったら是非、投下させてほしいと思う。

でも、とりあえず。
俺の怪奇は、今日で終わった。



疫病神

110 名前:「ケイさん」4-1 sage [2007/10/09(火) 17:41:31 ID:niDBAW0F0]
10月になったばかりの某日、ケイさんが職場に遊びに来た。大騒動を起こして辞めたくせにちゃっかり遊びに来れる神経がオカルトだと俺は思う。
ケイさんは和気藹々と職員の皆と喋り、1時間ほど滞在して帰った。
そしてケイさんが遊びに来た日の夜、心筋梗塞を起こして84歳の患者さんが亡くなった。
偶然だろうが、やっぱりケイさんは死神か疫病神か何かの類なんじゃないかと、俺は本気で思った。
そして、またひとつ嫌な思い出を思い出した。前置きが長くなったが、本題に入る。
確か、去年の正月だったと思う。寮生組の俺とケイさんと俺の同期の松田は、新年早々夜勤が入っていた。
冬、特に1月~2月ってのは、寒いからか患者が亡くなる率がすごく上がるんだが、今年も例外なく「今夜が峠」みたいな患者が新年早々数名いた。
死後処置の面倒臭さはハンパじゃないので、翌日のことを考えて、その日は皆、萎えまくっていたように思う。
夜、俺と松田がテキトーに各階の巡回をして、カルテを書いていた中、ケイさんは休憩室で御神酒と称して酒を飲んでいた。アル中めが。
そしてカルテも書き終わったころ、突然ナースコールが鳴った。405号室----空部屋からだった。
しかし実際、ナースコールの誤作動ってのは結構あって、誰もいない部屋からコールがあるってのは珍しくもなんともなく、恐くもなかった。
ナースコールを止め、俺と松田はカルテを書き続けた。
…が、またナースコールが鳴った。同じ405号室から。
「ちょっと俺、切ってくるわ」
松田が立ち上がって、405号のナースコールの主電源を切りに行った。俺はそれを見送って、カルテを書いていた。そのとき、ふと気付いた。
松田の後ろに、誰かがいる。
「…?」
目を懲らすと、病衣を着た男だとわかる。暗くて顔が見えないが、チラリとこちらに横顔が見えたとき、俺は心臓が跳ね上がった。

111 名前:「ケイさん」4-2 sage [2007/10/09(火) 17:42:32 ID:niDBAW0F0]
それは、『今夜が峠』の患者のひとりで、三日くらい前から昏睡状態だった岡田さんだった。
アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をしている。両手は不自然に前に垂らされ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。松田は岡田さんを引き連れて405号室に入っていった。
俺は思わず松田を呼び止めそうになった。すると、
「お前といい松田といい、揃いも揃って役立たずな上に疫病神たぁどうゆうことだ」
背後から声。言わずもがな、ケイさんである。いつのまに立ってたのか、酒が入っても相変わらずの無表情で俺の背後にいる。
「ケイさん、あれ…」
「よーく見てみろ。ホラ。」
ケイさんが促す。廊下に目をやり、俺は再び心臓が跳ね上がった。
増えてる。405号室から出て来て、こちらに歩いてくる松田の後ろに、人が。増えていた。なかには、違う病棟の患者もいる。
皆一様に、アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をして、両手は不自然に前に垂れ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。
「あ、あ、あれ、前田さんに、C病棟の宇佐美さんですよね…」
恐る恐る話しかけるが、ケイさんは欠伸をして、
「C病棟は管轄外だ。俺の知ったこっちゃねーよ」と冷たく言い放った。この人は本当に看護士なのだろうか?
「ケイさん、あれ、どうするんですか」
あの人たちは無害なのか、松田は大丈夫なのか、気になって聞いた。しかしケイさんは再び大欠伸をすると、
「人間てのは寂しがりだから、誰かを道連れにしたがりやがる。旅は道連れ、なんとやら、ってやつだ。自分以外に2人も連れてくんだ、これ以上は大丈夫だろうよ。ま、松田が死んでも、死後処置やんのは俺らじゃねーし。いんじゃね?どうでも。」と言った。

112 名前:「ケイさん」4-3 sage [2007/10/09(火) 17:43:30 ID:niDBAW0F0]
ケイさんの言い方に若干恐怖は感じたものの、とりあえず松田は大丈夫だとわかり、俺は息をついた。何も知らない松田はニコニコしてこちらに向かってくる。もう後ろには何もいなかったので、俺は安心した。
そのとき、ケイさんがポツリと呟いた。
「俺が夜勤だと、人がよく死ぬなぁ。」

俺は思い出す。あの患者が亡くなったのも、この患者が亡くなったのも、ほとんどケイさんが夜勤だった夜のことだった、と。ケイさんは俺を疫病神と呼んだが、本当に死神か疫病神か何かの類なのは、ケイさんじゃないだろうか。
酒片手に休憩室に入ってくケイさんの背中を見送りながら、俺は思った。

翌日、死後処置に追われて大変だったのは、言うまでもない。



ビデオ

138 名前:「ケイさん」5-1 sage [2007/10/20(土) 19:26:47 ID:KaLzfC+j0]
ちょっと久し振りに投下。
ケイさんが退職してから数週間が過ぎ、俺も俺のまわりもかなり平和になってきた今に敢えて話したいことがある。
それは半年くらい前。
ちょっとイヤラシイ話になってしまうが、俺も健全な青少年なんで、性欲は一端にある。が、
俺を含む寮生男子ってのはかなり貧乏で、いわゆる夜のお供…AVなんかは、レンタルではなく寮生同士で貸し借りし合っていた。
そんなあるとき、これまた寮生だった例のケイさんが、俺にオススメのビデオを貸してくれた。一見普通の録画用ビデオで、タイトルもない。
ケイさんは「ネット通販で手に入れた」って言ってたし、隠し撮りのやつなんだろう、と勝手に納得した。…それが甘かったわけだが。
「目茶苦茶いいんだよ。マジ興奮する。今夜おまえ寝れねーよ」
ケイさんはやらしい笑みを浮かべた。俺は、ああケイさんも人間なんだな。とちょっと失礼なことを思いつつビデオを受け取った。
その夜、俺はワクワクしながらビデオをセットした。途端に女の喘ぎ声が流れてきて、ビデオは始まった。女は金髪の巨乳で、男に跨がってた。ケイさんは洋モノ好きなんだwwwwとちょっと小馬鹿にしてビデオに見入る。

139 名前:「ケイさん」5-2 sage [2007/10/20(土) 19:28:08 ID:KaLzfC+j0]
すると、数分したところでベッドサイドにもう一人、女が現われた。黒髪で、俯いてて顔は見えない。
恥かしい話だがその女の出現に「洋モノな上に3Pかよww」と俺ははしゃいでいた。いつの間にか女はベッドの二人に近付き、二人の後ろ、ベッドの真中あたりの位置に顔を出していた。
さあ乱入か!?とワクワクしたが、数分たっても女は動かない。ベッドの二人だけが休みなく動いている。

おかしい。俺はようやくそこで気付いた。 このビデオを貸してくれたのが、ケイさんだということ。不自然な移動や、顔のみを覗かせるその様子からわかりそうなものなのに、俺は気付いていなかった。
このビデオは、ただのエロビデオではないのだ。
女の顔は相変わらずベッドの二人の間にあり、じっと二人を俯き加減ながらも見つめている。
今さらながらものすごい恐怖を感じ、俺は慌ててビデオを消した。女は今にもビデオから抜け出して俺の後ろに立ってそうで、目茶苦茶怖かった。
ケイさんの予言通り、意味は違えどその夜俺は寝れなかった。後ろを振り向けば、女の顔がベッドサイドから覗きこんでる気がして。

140 名前:「ケイさん」5-3 sage [2007/10/20(土) 19:28:41 ID:KaLzfC+j0]
次の日、ケイさんにビデオを突っ返して「何なんですかあれは!!」と力一杯怒鳴ったが、ケイさんはケタケタ笑うだけだった。 「俺は余裕であれで抜けるけど」なんて言いながら。
その後、そのビデオはオカルトマニアのあいだではかなり有名なビデオらしいということと、俺以外の寮生もケイさんによって同じ目に合わされていることを聞いた。
その鬼畜な所業からしてもそうだが、あのビデオで抜ける時点でやっぱりケイさんは人間しゃねえな、と思った。
今となっては、懐かしい。



肝試し

534 名前:「ケイさん」6-1 sage [2007/12/19(水) 13:17:39 ID:Axptkd+u0]

先週、ひどく怖い目に合ったので久し振りに投下。

先週の月曜日、たまたま名古屋に帰ってきていたケイさんと飲みに行った。
相変わらずのアル中っぷりで20分もしないうちにビールジョッキは既に8コも空になっていた。その飲みっぷりのほうがオカルトな気がする。
今は九州の小さな病院で働いているというケイさんに、俺は懲りずに怖い話をせがんだ。ビビりのくせにオカルトが好きという致命的な馬鹿が俺である。
そしてやはり、それがいけなかった。
「心霊スポットでも勝手に行け。」
恐怖は勝手にひとりで直に体験しろ、とでも言うようにケイさんはめんどくさそうに俺をあしらった。しかし俺も酔っ払ってたので、引き下がらずに「じゃあケイさん連れてってください」と食い下がった。
目茶苦茶ウザがっていたケイさんだが、今日の飲み代をおごると言うと嫌々ながらOKした。
このとき何故ビビりな俺があんなにしつこく恐怖を求めたのか、今になってみるとわからない。
が、取りあえずあの時点でやめておけばよかったとかなり後悔はしている。
そして次の日、二人乗りの赤いバイクに乗ったケイさんが俺を迎えに寮まできた。
行く場所は地元じゃ有名な心霊スポットのトンネル。俺は後ろに乗り、バイクは勢いよく走り出した。
途中のガードレールやなんかに花束が添えられている。中にはそこで亡くなったであろう人の写真なんかもあり、すごく気味が悪かった。そしてしばらく走り、トンネルが目前に控えてきた頃。突然ケイさんが何かを叫び出した。
「…!!!!……!!」
しかし風の音で何も聞こえず、俺は聞き返した。
「なんですかー!!!!???」
「…ろ…を…!!!!な!!!!」
「し…を…るな…!!!」


「 う し ろ を み る な !!!!! 」

ハッキリと、聞こえた。そして次の瞬間全身を寒気が襲った。俺は、サイドミラーに映るものを見てしまった。
「うわあぁぁあぁ!!!」
俺は絶叫した。サイドミラーに映る俺の腰あたりから、長い長い黒髪が見えている。ゆらゆらと風に揺れながら。
そして俺の腰を撫でるように見えた土気色のひび割れた手…。
「嫌だあぁあぁああっ!!!!!」
俺は無我夢中で腰周りを手で払った。

535 名前:「ケイさん」6-2 sage [2007/12/19(水) 13:18:27 ID:Axptkd+u0]

しかし手には何かあたる感触はしない。ただミラーに映る手は段々と俺の腰から胸元に移動していき、長い黒髪は狂ったように風に揺れている。
「ケイさあぁあん!!助けてくださいぃいぃい!!!!」
俺はケイさんにしがみつき、絶叫した。ケイさんは「お前もう死ねクソ野郎!!!」と叫ぶと、ものすごくスピードをあげてトンネルを突き抜けた。その運転も恐怖だった。
トンネルを出てどっかのコンビニにバイクを止めると、ケイさんは息を荒くして俺の腰周りを手で払った。
パン、ぱんとはたかれるたびに泥のような砂のようなものが俺の背中から落ちてきた。それはあの土気色の手を思い出させて、目茶苦茶気持ち悪かった。
「取りあえず顔洗って、塩気強いモン買って来て食え。てゆうか俺の前から消えろ。」
とケイさんは言った。
「あと、しばらく絶対振り向くな」と。

振り向いたらあの黒髪と土気色の手の主がいるような気がして怖かったので、もちろん振り向けなかった。
あの手の主が何なのかはわからないが、決して良いものではないのは確かだ。取りあえず俺は恐怖で足をガクガクさせながらもフラフラとコンビニに入り、トイレを借りて顔を洗った。
そしてうす塩味のポテトチップスを買って、コンビニを出た。
そこに、ケイさんはもういなかった。バイクごと跡形もなく。つまりは置いていかれたわけだが。
取りあえず二度とケイさんと心霊スポットには行かないと心に誓った。



社員旅行

858 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/02/02(土) 09:36:37 ID:9+lZHwA8O]
投下。
一年前の社員旅行での体験。
その社員旅行で、俺は福井に行った。なんの奇跡かはたまた呪いか、俺はケイさんと同じ部屋に泊まることになった。
それがいけなかった。ケイさんの存在に頼りすぎて、ケイさんがいることに安心しすぎて、調子にのってしまったのだ。
福井旅行のプランは、
一日目 旅館直行 宴会
二日目 芝正ワールド散策 東尋坊
という微妙なものだった。でもせっかくの旅行だし、多少はハメを外して楽しもう、と俺は同期たちと話していた。それも、いけなかった。
旅館につき、俺とケイさんは荷物を部屋に置くとすぐにゲーセンに向かい宴会まで時間をつぶした。余談だが無理矢理撮ったプリクラにはケイさんの肩にもやが掛かっていて気味悪かったので捨てた。
そして宴会になった。ケイさんは、認めたくないが小綺麗な顔をしてるので違う病棟のナースさんや主任からも割りと可愛がられていて、宴会でも絡まれていた。
しーちゃん、しーちゃんと、女の子みたいな下の名前をもじって呼ばれてからかわれているケイさんを横目に、俺と同期の松田、後輩の佐藤は宴会をそっと抜け出した。
目的は、旅館から少し歩いたところにある踏切だ。

859 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/02/02(土) 09:37:19 ID:9+lZHwA8O]
どこから仕入れてきた情報なのか松田が言うには、十年くらい前に男の子とそのお母さんがその踏切で亡くなったらしい。なんでも誰かのいたずらで男の子の足が踏切の隙間から抜けなくされ、助けようとしたお母さんもろとも電車にはねられたそうな。
要するに心霊スポットだ。いつもなら嫌がるところだが、せっかくの旅行だし、何より部屋に帰ればケイさんがいる。そんな甘えもあって、俺はその踏切に向かうことにした。
着いてみれば、なんのことはない。フツーの踏切だった。花が添えられているわけじゃないし、血の跡なんかもない。拍子抜けして帰ろうとした、でもそのとき。
「記念撮影しよう」と松田がカメラを取り出した。つくづく準備のいいやつだ。しかし結局は何もなかったし、まあいいか、と写真を撮った。
その後、てくてく歩いて旅館に帰ると、玄関に仁王立ちしたケイさんが立っていた。 そして、俺を見つけるなり
「…来い。」
と腕を無理矢理引っ張った。腕を握る力はやたら強くて痛くて怖かった。なんで?なんでこの人怒ってんの。わけもわからないまま俺はオロオロしながら部屋に連れてかれた。
そして、部屋に着くなり「脱げ。」と言われた。
このひとソッチの趣味あったの!?つうか困るし!!!と慌てふためいていると、痺れを切らしたケイさんが自ら俺の服を捲りあげた。
そして、見事に舌打ちすると「馬鹿野郎!!!!死にてぇのか!!!」と突然怒鳴り、ひっぱたかれた。意味がわからず、怖くて仕方なかった。ケイさんはいつも以上にキレていた。
「ガキが一番危ねぇんだぞ!!!なんでそんなことがわからねぇんだ糞ガキが!!!!」と目茶苦茶怒鳴られ、胸倉を掴まれる。叩かれた頬がヒリヒリして痛かった。たぶん俺は号泣していた。
そんな情けない俺に多少落ち着いたのか、「…ゴメンなさいは?」と聞いてきた。俺は迷わずゴメンなさいと答えて、情けない話だがしばらく泣いて居た。
その後、ケイさんに服を捲って鏡を見るよう言われて実行した。すると、ちょうど俺の腰あたりに、くっきりと歯形がついていた。何かに噛まれた記憶なんてないのに。

860 名前:本当にあった怖い名無し sage [2008/02/02(土) 09:39:10 ID:9+lZHwA8O]

一気に血の気が引いた。しかも良く見ると俺のズボンのところどころに血がついている。もちろんどこも怪我なんかしていない。
「嫌な予感がして迎えに出てみたら、お前の真上から、逆さ吊りみたいになったガキがケタケタ笑ってお前を見てた。俺見たら逃げやがったが、御丁寧に歯形までつけていきやがって。お前随分気に入られたみたいだな。」
いっそそのまま連れてかれりゃ楽だったのに。とケイさんは言った。
想像すると寒気がした。そして、あの「記念写真」に何が写っているのかも、想像するだけで怖かった。
取りあえず旅行初日は最低な夜になった。
二日目は、東尋坊で死にかけたりしたが、それはまたいつか投稿したいと思います。写真に何が写っていたのかも。

  • 最終更新:2009-12-05 23:31:59

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